シスメックス社友会
白波瀬です。「家族の健康を守ろうシリーズ」第三回は上咽頭炎について報告することになっていましたが、第二回歯周病に追加したい情報がありましたので連続歯周病についてお知らせします。 2002年に口腔専門誌に歯周病菌(p.gingivalis、Treponemadenticolla、Tannerella forsythiaの3菌種)がアルツハイマー病(AD)の脳で見つかると報告されましたが、多くの歯科医はこうした全身疾患に関心はなく、内科医もまさかと無視しました。しかし、2011年にADで亡くなった90%の人の脳からTreponemaが、40%にp.gingivalisが見つかると報告され、その後多数の支持する論文が報告されています。昨年Science Newsにおいてこれらの論文が紹介され、初めて大きな問題となってきました。しかも、これらが脳に入り込む経路が口腔神経から迷走神経を経由してダイレクトに脳に入り込むことが明らかになったのです。 これまで歯周病菌が血管内に入って血小板にもぐりこんで全身に感染し(血小板にもぐりこんで白血球の攻撃をかわす)、リウマチ、動脈硬化、心筋梗塞、がん化の発症に関与することは認知されていました。しかし、脳血管には菌を通さない脳関門があるから脳は大丈夫と安心しきっていた脳神経内科医にはショックだったと思われます。 歯周病菌の出す毒素は神経毒といわれており、試験管内でアミロイドと混合するとアミロイドがβシート化することも報告されています。恐らく脳内で炎症も同時に引き起こされサイトカインの放出と多量の活性酸素が放出され、βアミロイドの沈着に寄与するものと思われます。ADは約30年をかけて発症するといわれていますが、まさに歯周病罹患期間と並行してADに突き進んでいるのかもしれません。ADの発症原因は一つとは限りませんが、かなり大きなリスクオッズを持っていることが推定されます。 Treponemaは梅毒と同じスピロヘーター属で独自の進化をしてきた変な菌で耐性菌を作らない特徴を持っていますのでペニシリンで死滅します。しかし、ペニシリンを含め多くの抗生物質が脳関門を通過できないため、現時点では脳に入り込んだ菌を除去することは難しいようです。将来はADもリウマチも動脈硬化も心筋梗塞もがんも予防薬として抗菌剤治療の時代が来るかもしれません。我々定年者にとっては既に手遅れかもしれませんが、進行を抑えるためにも定期的な口腔ケアと日々の衛生管理が重要となってきます。 そんな中、良いグッズを見つけましたので紹介しておきます。これまで口腔内の衛生管理として抗菌剤の入ったリンス液(リステリンなど)が販売されていました。これらは「お口グチュグチュ」するタイプで刺激も強かったのですが、最近液体歯磨きが販売されています。(写真は花王の製品ですが、サンスターからも出ています) 研磨剤が入っていないので歯の表面を守りながら、歯ブラシで歯周ポケットまで薬液を届けることができます。若い人には研磨剤が必要ですが、中年以降は歯の表面のレンサ球菌を取らないようにしたほうが良い。(レンサ球菌は歯の表面を鎧のように覆って虫歯菌から守っているし、口内細菌の環境を維持するのに必要といわれだした)先端の細いやわらかい歯ブラシで45度の角度で歯周ポケットをかき出すように使用することがベストの歯磨きになるようです。ブラッシング後のゆすぎも軽く行う程度で、しっかりゆすがない方が良いかと思います。液体歯磨きの良さは朝起きたときに実感してもらえると思います。 写真の歯ブラシはアパホテルの使い捨て歯ブラシなのですが、かなり優れものです。やわらかく毛先が細くなっていて柄の角度も申し分ありません。市販歯ブラシよりも優れていると思いますので、ホテルに宿泊されたときは是非お持ち帰りいただいて日常で使っていただきたいと思います。使い捨てはもったいない。 口腔の定期健診と液体歯磨きは我々でも簡単に実施できる予防です。家族がADと心血管疾患とがんにならないように、家族に広報いただいて健康を監視してください。
最近、歯周病に対する遺伝的な抵抗性を持つ人が居ることも分かってきました。全く歯磨きしなくても歯周病にならない人で菌に対する特殊な防御機構があるようです。このような人はひょっとするとAD、動脈硬化、がんにも無縁なのかもしれません。 またp.gingivalisには遺伝子の違いで6種類の菌が存在するようなのですが、全て同じ性質ではなくp.gⅡ型は他の5種類に比べ45倍も歯周炎になりやすいことが分かってきました。現在、大阪大学付属病院、検査センターでも自費検査ができるようになっています。歯周病菌の除菌は歯がある限り極めて難しいことを【第二回】で報告しましたが、3DS除菌治療で除菌できることがネットで紹介されています。 悪性度の高いp.g菌を持っている人は試しても良いかと思います。 ヘリコバクターピロリ菌を口に持っている人は除菌しても再発します。(口内歯周ポケットのバイオフィルム内のヘリコバクターピロリ菌は抗生物質が効かない) 歯周病のHIV患者の口内ではウイルスが活性化して唾液での感染のリスクが高いことも報告されています。軽はずみなキスはもちろん気をつけなければなりません。このような情報を良く知っている歯科大学の研究室の飲み会では返杯禁止、料理はツケバシを徹底しているところもあるようです。やはり外から持ち込んだ菌を家族に感染させないことは重要で、一旦感染させると何世代も不幸になっている可能性もあるのです。 さあ、歯の定期健診と液体歯磨き、家族への広報、頑張ってください。

